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最高裁判所第三小法廷 昭和59年(行ツ)244号 判決

兵庫県川西市花屋敷二丁目五番二五号

上告人

杉立貞之助

右訴訟代理人弁護士

仲武

大阪府東大阪市永和二丁目三番八号

被上告人

東大阪税務署長

西川彰

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五六年(行コ)第三七号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五九年三月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  本件上告を棄却する。

二  上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人仲武の上告理由一及び八について

所論は、原判決の引用しない第一審判決の認定判断部分を非難するものであって、原判決の不当を主張するものではないから、上告適法の理由となりえないものである。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実を前提として原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木戸口久治 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島敦)

(昭和五九年行ツ第二四四号 上告人 杉立貞之助)

上告代理人仲武の上告理由

一、所得税法第六四条二項は、譲渡人が保証債務を履行した後に、その求償不能が確定した場合に限定さるべきでなく、原判決は所得税法第六四条の解釈適用を誤ったものである。

二、上告人が個人資産である本件土地を譲渡せざるを得ないようになったのは、上告人が損害賠償責任を負うに至ったためである(商法第二六六条の三、所得税基本通達、六四-四(六))。

三、訴外不二版工業株式会社は、謄写版及びその附属品の製造販売を業としていたが、コピー機の普及に伴い漸次経営不振となり昭和三九年一二月二九日約一億五千万円の負債を拘え大阪地方裁判所に会社更生申立をなし、事実上倒産した。

四、右会社が会社更生申立(大阪地方裁判所昭和三九年(ミ)第二九号)をなすに至ったのは、その数年前より右会社代表者であった上告人が資金繰りのための約束手形を振出してこれを銀行で割引き、更にその手形支払いのために手形を振出して銀行で割引く方法を続けたため、会社更生申立時には融通手形が約二、五〇〇万円に達していた。

五、上告人は、融通手形を振出しても支払いのために更に手形を振出す以外に支払いの見込みがなかったにもかかわらず、経営規模の縮少等適切な処置をとらず漫然融通手形の振出しを続け、支払不能に至らしめた重過失がある。

六、右会社の工場は上告人から賃借したもの、機械設備も上告人の弟から賃借したもので、固定資産はなく更生困難のため右会社の代表者である上告人が個人資産を以って負債を支払うことを約する等の方法により昭和四〇年四月三日更生申立を取下げ営業を継続することになったが、倒産会社の常として銀行融資は不可能で原材料の仕入れも現金取引でなければなしえない。従業員も取引先も右会社の賃金、原材料仕入れ等はすべて上告人の個人保証を前提として労務の提供及び取引に応じ、これによって右会社は営業を継続しえたのである。

七、右会社においても終戦後間もなく労働組合が結成され、従業員に対し退職金を支払うようになった。退職金額は、退職の都度合意により定めていたが、本件主張の杉立二平外八名は永年勤続者のため、退職金額が高額で、即時支払困難であったので、甲第一〇号証の二~四を作成したが、その他の従業員に対しては少額であり退職金を即時に支払った。

八、したがって上告人は、会社更生申立取下げ以来個人保証を継続しているのであって、支払不能の状態になった後の保証ではなく、求償権行使が確実的に不能であることを承知のうえでなしたものではない。仮りに被上告人主張のとおり求債権の行使が不能であることを承知していたとしても未必的であるから、原審の認定は法六四条二項の解釈適用を誤ったものである。

九、不二版工業等に対する立退料(甲第一〇号証の五)について、税法が権利確定主義(法三六条)により、本件不動産の譲渡代金が未収であってもこれを譲渡所得として取扱う以上、右立退料が未払であっても支払約定が確定しているのであるから当然譲渡費用となる(法第三七条)。

一〇、法六四条の趣旨は、譲渡所得等の一回限りの所得について実質上所得なくして課税するに等しい不公平を調整するためであり、約定により保証債務を負担した者に限らず法律の規程により連帯して損害賠償責任を負うに至った場合も含まれる。

一一、不二版工業は人員の整理、販売範囲の縮少等減量経営に徹すれば営業継続が可能であり、現に謄写版業者でその例も存する。

しかるに上告人は漫然従前の規模のまま営業を継続した過失があるので、右会社の債務について支払いを受けられなくなった債務者に対し個人責任を免れない。

一二、以上のとおり原判決には法第三六条・三七条・六四条の解釈適用の誤りがあり破棄さるべきである。

一三、所得所属年度の誤り

1 訴外南大阪住宅株式会社は、マンション敷地として、昭和四七年八月二三日訴外飛鳥井正一から大淀区豊崎四丁目六三番の一の土地を(甲第一八号証)、同年九月二〇日上告人から本件土地をそれぞれ買受け、同月二二日所有権移転登記がなされた(甲一七号証)。

2 しかして右訴外会社は同年一〇月六日これを二筆に分筆し、更に他の二筆を合筆した(甲一七号証)。本件土地の売買時期について、会社取締役間の取引承認の取締役会議事録にも取引時期を昭和四八年とする旨の記載はなく、かえって、訴外清水税理士(昭和五三年八月三一日死亡)が訴外会社の法人税申告の準備のため作成したメモ(甲第二〇号証)には、本件土地の売買時期が昭和四七年である旨の記載がある(大阪地判昭和三六・一二・二〇行集一二・一二・二四五三・訟月八・二・三六八)。

3 売買契約書(甲第一〇号証の一)の作成された経緯は次のとおりである。

(1) 即ち、昭和五二年三月初め頃、被上告人から上告人に対し税務調査のため呼出があり、上告人は清水税理士と共に東大阪税務署へ出頭したところ、昭和四八年分申告所得に関する書類を持参しなかったため、同署係員から関係書類が存すれば持参するよう求められた。しかし、上告人はそのような書類を作成していなかったので、清水税理士の指示に従い急遽売買契約書(甲第一〇号証の一)等を作成した。

(2) しかし、右契約書に貼付すべき昭和四七年当時発行されていた一万円収入印紙(昭和三八年八月一〇日大蔵省告示第二四五号、地紋暗緑色、模様緑色及び茶色)は、昭和四九年四月三〇日大蔵省告示第五八号により地紋暗緑色、模様濃い緑色に改正され、発売されていなかったので、清水税理士の指示により訴外会社とマンション建築工事請負業者訴外大都工業株式会社間の工事請負契約書(甲第二一号証)に貼付されていた一万円収入印紙を流用した(そのため甲第一〇号証の一に貼付の収入印紙には二重消印の痕跡が残るに至った)。

4 上告人は既述のとおり、土地代金の収入がない限り所得申告を要しないものと信じていたのであり清水税理士は既に昭和四七年分所得の申告期限が経過していたので、昭和四八年分所得として本件申告をなしたものと思われる。

5 収入金額計上の時期は、申告者において任意選択しうるものではなく権利確定主義により、本件の場合は所有権移転登記と引渡がなされ、買主である訴外会社が分筆合筆等事実上所有者として本件土地の利用を開始した昭和四七年である。売買契約書(甲第一〇号証の一)に記載されている「実質取引」なるものは右のとおりすべて昭和四七年中になされている。

上告人の主張は何ら信義則に反するものではない。

6 上告人は昭和四八年分確定申告書の記載内容の是正を求めるものではなく(申告内容の是正は修正申告によるべきものである)、本件更正処分はそもそも譲渡所得の存しない昭和四八年分確定申告に対してなされたものであるから、その取消を求めているのである(大阪地判昭和四一・九・一六行集一七・九・一〇四二、訟月一三・二・二四〇)。

以上

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